GAEA ART & DESIGN PRODUCE
ガイア アート&デザイン プロデュース
街歩記
Landscape Review
(1)街のやさしさ、「ベンチ」
知らない街を訪れた時、街なかのベンチに気をとめてみて下さい。
と申しますのも、ベンチを「読む」ことで、その街の人々の優しさに触れることができるからです。表層的なデザインに注目する前に、そのベンチは誰のために、何故そこに置かれたのか、設置の「背景」に目を凝らすと、都市計画の根本や、その課題に至るまで垣間見ることができます。
因みに、公共施設、ベンチを街なかに設置することは、実は以外に大変です。設置する土地の管理者は誰で、許可はもらえるのか、交通上支障にならないか、その街、その場所に相応しいデザインか、浮浪者の寝床になりはしないか、雨ざらしでも汚れにくいか、製作と維持管理は誰が行うか…多様な課題が山積です。
しかし、これらの解決以前に、「どうしてもここに設置したい!」という必要や配慮に、街が気付くことこそ大切です。
こうした街の配慮を写すベンチとは、その設置場所、デザイン、管理状況などから、その街の「生活意識の指標」にもなり得ます。人々に愛されるベンチには、街の顔と誇れる程の「都市のやさしさ」が、醸し出されているのです。
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(2)ベンチから広がる街づくりの可能性
様々なベンチを見て参りますと、ベンチをもっと多角的に活用することで、街の様々な魅力を再発見し、創造して行くこともできるのではないでしょうか。
緑と花のベンチ
ベンチと植栽、又は花壇をドッキングさせた「0.1坪の、小さな小さな公園」。
ベンチとともに緑も増える、街にやさしいデザインです。奥行き30㎝以下のため、一般路上でも、電柱や交通標識よりはみ出さすことなく設置できます。
<設計:ガイアA.&D.P.>
a) 街のバリアフリーサポート
高齢者の多い地区や、市民が生活する上で不可欠なルート(商店街、至病院、至公共施設等)には、積極的にベンチを設置したいものです。
設置場所は、公園にとどまらず、街角に小スペースを見出したり、道路ぎわ随所への設置を、検証したいものです。
その為のベンチには、美観はもとより、どこにでも設置しやすいよう、「奥行き」を極力小さくする工夫が必要です。
バス停ベンチ併設
道路沿いに4~500mおきに点在するバス停。これにベンチ機能をコンパクトに併設。これまでのバス停標識とほぼ同じ面積で設置できます。
誰でも利用できることを原則とし、官民協働で進めれば、掲示部分も、公共情報の新たな伝達手段(広報板)として期待できます。
<設計:ガイアA.&D.P.>
街おすすめの散策路を選んで、その「道しるべ」として、ベンチを活用してはいかがでしょうか。
本来の「休憩の道具」としてはもとより、市民や来訪者を散策へといざなう、「ランドマーク」としての価値に期待します。
河川沿いの散策小路(河川管理道路)
通勤通学、買い物帰り、ご高齢の方始め、リハビリや車椅子の方…様々な人々が往来する気持のよい小路。
電柱、電線が無く、美しい景観も多く残ります。ベンチと藤棚のしつらえは、散策路に安心と一層の魅力を与えています。
c) 景観の紹介
よく知っているはずの道なのに、ふと目を上げると、遠くの山肌の美しさに改めて気づいた経験などないでしょうか?
とある一角に立つと、冬の晴天時、富士山が覗くとか、海がキラリ垣間見えるカーブがあるとか、ある季節には、延々と花が咲く小路を知っているとか…。
そうした街の再発見スポットに、さりげなくベンチ(ヒント)を設置し、その街の魅力を、皆で共有していきたいものです。
地方都市の街かどの風景
日中忙しくしていたり、花の季節を逃していたりで、とかく見落としがちなご近所の景観。
いわゆる「景勝地」程ではないものの、何気ない道沿いにも、ほっとする景観があるはずです。
それらを、さりげなく示してくれて、しばし眺める機会を与えてくれる「しかけ」があれば、
私たちの街も生活も、一層素敵になることでしょう。
横浜港の新開発地区近くのベンチ
船舶を港に繋ぎ止める「停泊杭」をモチーフにしています。
これは、レトロなタイプの杭形状で、実物(右下写真)を探すのに苦労しました。
歴史ある港横浜を、よく示したユニークなデザインですね。
ベンチ後姿
「停泊杭」実物
その街の魅力やアイデンティティー(独自性、主体性、本質)を認識することは、全国の街にとって大変重要です。日々住み慣れた街も、気づかぬうちにわずかづつ変化しています。「世相の変化」とともに、大切な街の魅力が、徐々に失われていないでしょうか?
何気ない街の魅力が意識されぬまま、見過ごされ、失われ続ける悲劇がとても多く報告されます。ベンチ計画を通じて、街の魅力を今一度確認し合い、アイデンティティー創出の一助とできないでしょうか。
若宮大路は、相模湾から鶴岡八幡宮に至る、往復約3.7Kの歴史的参道です。鎌倉駅~海岸~八幡宮~駅のコースは、鎌倉時代からの都市計画の変遷をたどる魅力的なルートです。しかしこの辺りに、ベンチが著しく少ないのは、残念なことです。
紅漆塗りの八幡建築により、古から漆器「鎌倉彫」が、伝統工芸となっており、このベンチ案は、重ねられた鎌倉彫菓子皿をモチーフとしています。一か所に複数設置の際は、重ねるソーサー(座板)の枚数を変えることにより、参道に変化とリズムを与えます。
誰もが、ちょっと足を止めて座りたくなる、伝統の色と形を目指します。<設計:ガイアA.&D.P.>
鶴岡八幡宮と若宮大路
鎌倉彫
(写真協力:博古堂)
上写真と右図は、歴史的背景から個性豊かな2都市の例です。2例のデザインとも、街なかでのちょっとした光景から発想を得、それぞれの街の特徴を語っています。このように、日常の何気ないスナップの中に、その街の本質が隠れているのかもしれません。
最小の公共施設であるベンチ。
街なかに一層広めたい「優しさの指標」として、街の魅力を紹介する「案内役」として、そして、街のアイデンティティーを見出す「きっかけ」として、ベンチから広がる新たな街づくりの可能性に期待します。